携帯通信機器大手の企業、「華為技術有限公司」通称ファーウェイはスマートフォンをはじめとする情報機器を作っており、日本ではその設計の進歩性やコストパフォーマンスから高く評価されています。いえ、正確に言えば、「いました」。
この「いました」と言っている最大の要因が、「ファーウェイ問題」です。身の回りで大きくとりあげられたのは2019年5月のこと。ファーウェイのスマートフォンに使用されてきたAndroidシステムが、米国の禁輸措置によって使用できなくなる可能性が言及されたのです。これによりファーウェイの新型スマートフォンが日本国内での販売が中止・延期され大きく変化することになりました。
ではこのファーウェイ問題とはそもそもどういったものなのでしょうか。企業においてが、あまり気にする必要もないと思われる方もいると思いますが、実情を探ると、中小企業においては無視できない実態が見えてきます。今回は次世代の技術を巡る米中の関係性と、ファーウェイリスクとも言われる問題を探っていきましょう。
ファーウェイ問題の概要
このファーウェイ問題の内容を大きく分類すると以下の3点になります。
A.Android OSを中心としたGoogleエコシステムからの隔離
B.次世代通信機器プラットフォームからのファーウェイ機器・部品の排除
C.スパイ行為・サイバー攻撃リスクとされる事象・人脈の徹底排除
個人の視点で見ると、このAの影響がもっとも実感としてあることでしょう。国内の携帯電話会社もファーウェイ機器を数多く取り扱っていましたが、最新のOSが提供される可能性が低くなったことにより、販売自体を休止することになりました。
企業として見た場合にはBが関係してくることになります。ファーウェイは情報通信インフラを数多く手がけており、サーバ機器やネットワークエッジ網等で廉価な機器を提供していますので、国内の企業で使用している例も少なくありません。極端な話ではありますが、ファーウェイ機器を使用しているメーカーが米国の事業の入札等で制限され、あるいは現在取り組んでいたが契約から排除される、という事象も発生しています
発端となった事件
このファーウェイ問題の発端となったのは2018年の12月です。もともとそれまでにもファーウェイがスマートフォンにバックドアを仕込み、米国やその同盟国の情報をスパイしているのではないかといった話があり、米国側が警戒を強めていました。その対立が鮮明なものとなった事件が発生したのです。
2018年12月5日にカナダの司法省が米国当局の要請を受け、ファーウェイのCFOである孟晩舟氏を逮捕しました。その容疑は「イランへの違法輸出に関わった疑い」というものでした。これに対して中国政府は大きく反発し、米国やカナダの政府・企業を大きく非難しました。
ここからファーウェイ、ひいては中国と米国の対立が大きなものとなっていきます。
米国の対応とその影響
年が明けると米国は政府機関をはじめとして内部で使用されている情報機器からファーウェイのメーカーを締め出すとともに、同盟国にも次世代通信網(5Gネットワーク)からのファーウェイの排除を求めるようになってきました。
5月にはトランプ大統領が対中関税を大きく引き上げることを発表するとともに、15日にはファーウェイを含む大きくの中国企業に対して大統領令を発令し、制裁・禁輸を宣言しました。
すると19日には米Googleがファーウェイに対して一部ソフトウェアの供給の制限を示唆する発言を行い、家庭向けのスマートフォンでもファーウェイ機器を使用することに対するリスクが大きく鮮明なものとなっていたのです。
この対応について、現在は少々静まっているもののくすぶり続けているため、今もなお予断を許さない状況にあります。
ファーウェイ側の主張
もちろん、ファーウェイ側も反論していないわけではありません。発端となったCFOの逮捕に関してはカナダの司法省に対して司法の乱用であると強く反論をしています。
また、ファーウェイ機器の利用に関して安全保障上の問題に対しては「何の証拠もない」と強く反論をしています。
米国側は同盟国に対してファーウェイ機器を避けるよう要請していますが、その一方で同盟国であるイギリスでは5G導入に際しファーウェイ機器を利用する方向性を出しており、対応が分かれています。
さらにAndroid OSに関してはファーウェイ自身で開発する方向性に舵を切り、今年秋にも新しいOSを作ることを発表しています。
しかしながら一方で、ファーウェイは中国解放軍とのつながりがあるという報道もされており、疑惑の払拭には至っていないのが実情です。
現在の最新状況
2019年11月現在もいまだにこの問題は継続しており、ファーウェイを次世代のネットワークから排除しようとしている米国と、それに対抗する中国といった構図は変わっていません。一方で小売りレベルではファーウェイのスマートフォンの販売休止は解除されており、現在は普通に購入可能となっています。端末からGoogleのエコシステムに接続することもできており、現状として「は」大きな問題は発生していません。
大局的に見るとファーウェイ自体は米制裁のダメージを受けており、多少なりとも損失を抱えていることは間違いありませんが、それ以上に中国のサポートを得ており、発展途上国のネットワークインフラ構築等で大きな存在間を示し続けています。
日本の立ち位置
そのような最中、日本は米国の同盟国であることから、次世代ネットワーク構築からのファーウェイ機器の使用に関する制限を検討しています。携帯電話各社もそれに倣い、次世代通信網は主にノキアやエリクソンなどの機器を選定しつつあります。
スマートフォン自体の販売は継続しており、そのコストパフォーマンスなどからサードキャリアなどでの販売がされています。しかし一度「Androidが供給されない可能性」が提起された影響は大きく、現在も販売数量には陰りがあることは間違いありません。
全体を俯瞰して総括すると「現時点では大きく問題となってはいないが、いつ爆発してもおかしくない」という状況が続いていると見ていいでしょう。
今後の論点
ファーウェイ問題はもはや「ファーウェイ機器を使用するか」という問題ではなく「米中貿易戦争」の一つとなっています。ファーウェイがスパイ行為を実施していたかどうかは大きく問われなくなっており、各国がどのような方針をとるかによって対米・対中の貿易戦略が問われているという事態が続いています。
(もっともスパイ行為に対する検証は続いていますし、公的機関からの排除の方向性が変わることはないでしょう)
セキュリティベンダーや専門家は「提供されている端末を検証し、正しく安全性やプライバシー保護がなされているかを検証すべきである」という方針に変わりはありませんが、やはり開発国がどこかといった要素によりその立ち位置も大きく変わっています。
混迷を深めるファーウェイ問題に、明確な回答は出ることはまだないと想定されます。
セキュリティ担当者が検討すべき対応策
セキュリティ担当者にとってはこの問題はどちらかというと社内の政治的な問題に変わります。「企業自体がファーウェイに何かしら関わっているのか」、また、「公的機関との関わりがどうであるか」。「今後の営業先がどこであるのか」。「そもそもファーウェイ機器の使用を見られた時に、相手がどのような考えを持つ可能性があるのか」。
正直なところ今回の問題についてはセキュリティの「ソフトウェアレベル」や「セキュリティ状況レベル」で対応するものではなくなりつつあります。しかしその一方で「ファーウェイの機器を利用していることが知られることそのものが問題となる」可能性があるのも事実です。機器選定の際の一つの懸念点として、セキュリティ担当者もある程度、情報を追い続けるべきであることは間違いありません。