「動作の軽快さ」は、セキュリティソフトを選ぶうえで重要なポイントの一つです。しかし、最近ではコンピュータそのもののスペックが向上し、またメーカーの企業努力もあり、各メーカーの動作速度の差はほとんどないというのが実際のところです。ただメーカーにはそれぞれにポリシーがあり、そのポリシーを反映した動作の“癖”によって「動作の軽快さ」に違いが生まれることがあります。
そこで今回は、セキュリティソフトが与える処理速度への影響について説明していきたいと思います。
- セキュリティソフトが動作している4つのタイミング
- 「動作の軽快さ」はメモリやCPUなどの占有率によって決まる
- 「動作の軽快さを優先」それとも「その他の処理を優先」どちらを選ぶ?
- セキュリティソフトの癖が現れる部分とは?
- ウェブブラウジング中の操作の軽快さはどこまで追求できるのか
- ファイルの操作はセキュリティソフトの腕の見せ所
- ファイル操作時の動作軽減に注力するメーカーは多い
- 調査精度を上げた結果、動作が重くなっているセキュリティソフトも
- 法人向けセキュリティソフト主要6製品の「軽快さ」比較
- Canon ESET Endpoint Protection
- F-Secure プロテクション サービス ビジネス 一
- Kaspersky Endpoint Security for Business
- McAfee Security for Business
- Symantec Endpoint Protection
- Trend Micro ウイルスバスター ビジネスセキュリティサービス
- 必要なのはバランス
- セキュリティソフトがストレスとなる前に
- サポートを積極的に使って、理想の体制を構築しよう
セキュリティソフトが動作している4つのタイミング
セキュリティソフトが主に動いているのはこの4つのタイミングです。これら各プロセスが発生するたびに動作や通信の正常性を確認し、動作を続けるのか、それとも中断するのかをセキュリティソフトは判断しています。これらのタイミングを考えるとセキュリティソフトは常に稼働している事が分かります。
- コンピュータ内部をスキャンした時
- 外部からデータを受信した時
- コンピュータ内でファイル操作が行われている時
- プログラムを導入/立ち上げた時
「動作の軽快さ」はメモリやCPUなどの占有率によって決まる
セキュリティソフトが常時稼働しているとなると、当然他の処理と並行して行われることとなります。同時並行して処理を行う場合、コンピュータの限られた計算資源のどこまでをセキュリティソフトが占有し、どれだけ他の処理に使わせるのか、「動作の軽快さ」はコンピュータのメモリや処理能力をセキュリティソフトがどこまで占有するのかによって決まります。
「動作の軽快さを優先」それとも「その他の処理を優先」どちらを選ぶ?
すべてのセキュリティソフトの性能が同じだと仮定した場合、処理時間が一番短いのはセキュリティソフトの動作を最優先に処理させようとするソフトです。他の動作をさしおいて最優先にセキュリティソフトを処理させるわけですから、早く終わるのは当然です。ただその分、セキュリティソフト以外の動作の処理には時間がかかる、つまり重い状態になります。
反対に、セキュリティソフト以外の動作を最大限許容した場合には、セキュリティソフトの処理が完了するまでの時間は長くなるものの、他の動作は軽くなります。
このように、セキュリティソフトの「処理時間」と「動作の軽快さ」はトレードオフの関係にあります。コンピュータの計算資源が限られてしまっている以上、仕方がありません。加えてセキュリティソフトそのものの処理速度の違いで、セキュリティソフト動作時のコンピュータの軽快さは決まっています。
セキュリティソフトの癖が現れる部分とは?
ここでは、セキュリティソフトの癖が現れるこれら4点について評価していきます。
- ウェブブラウジング時の処理速度への影響
- 他のプログラムを導入/起動した時の処理速度の影響
- OS起動時の処理速度への影響
- ファイル操作時の速度への影響
その前に、その中の「ウェブブラウジング時の処理速度への影響」、「ファイル操作時の速度への影響」について、少し踏み込んだ解説をまず行いたいと思います。
ウェブブラウジング中の操作の軽快さはどこまで追求できるのか
現在、情報収集などでウェブブラウジングを行うのは当たり前になりました。ウェブブラウジングは外部からデータを受信するので、セキュリティソフトは常時監視している状態となります。そのため、セキュリティソフトを導入していない時に比べて、導入している時の方がどうしても動作は重くなります。
しかし利用者は、リンクをクリックしたらすぐ移動するような動作を求めます。そこでセキュリティソフトメーカー各社は、自社の特性を生かした様々な方法で、ウェブブラウジング時の動作の軽快さを追求しています。
- スキャン対象データをある程度溜めてから一気にスキャンをする。
- 独自のエンジンでウェブブラウジングに特化した方法を用意する。
ファイルの操作はセキュリティソフトの腕の見せ所
ファイル操作時の動作軽減に注力するメーカーは多い
セキュリティソフトは、ファイルを取り込む際やコピーした際、操作されたファイルにウイルス感染がないか、不要な変化をしていないか、といったことを調べます。この時の動作速度というのは、やり取りされるファイル数やファイルサイズの大きさに左右されます。
特に業務で使用されるコンピュータでは、大きなサイズのファイルの頻繁なやり取りが当たり前といっても過言ではありません。そのためセキュリティソフトメーカーも、業務用セキュリティソフトにおいては、「ファイル操作時にいかに動作を軽くできるか」という点に力を入れています。
調査精度を上げた結果、動作が重くなっているセキュリティソフトも
各メーカーの企業努力の結果、最近ではファイル操作時の速度の差はほとんどなくなってきました。しかし中には、「大容量データはしっかりと調査しなければいけない」というメーカーの信念から、調査精度を上げざるを得なくなり、結果的に動作が重くなってしまっているセキュリティソフトもあります。
また、差がないとは言ってもファイルの通信や圧縮・解凍が行われるたびに調査が行われるので、一回一回の差は小さくとも、積み重なった時の全体的な使用感には違いが出てくるでしょう。 このことから、ファイル操作時の動作速度は、導入するセキュリティソフトを選ぶ際の指標の一つになります。
法人向けセキュリティソフト主要6製品の「軽快さ」比較
ここではセキュリティソフトを、セキュリティソフト未導入時と比較した場合のコンピュータのパフォーマンスについて4つの指標から見ていきます。
セキュリティソフトの性能については、AV-TESTやAV-Comparativesなど様々な第三者機関がテスト、検証を行っており、その結果はインターネットにて公表されています。
今回の記事は筆者の経験に基づく意見ですが、こうした第三者機関のテスト結果も参考に、自社に合ったセキュリティソフトを探してみてください。
Canon ESET Endpoint Protection
動作が軽快な分、処理が完了するまでに時間がかかる
公式ホームページでもうたわれていますが、Canon ESET Endpoint Protectionの一番の特徴は、他メーカーのセキュリティソフトに比べて動作が軽快であることです。今回の主眼である動作速度という観点では、どの項目でも特筆すべき問題点というのは見当たりません。
ベンチマークの結果でも他のプラグラムに与える影響は少ないと評価されており、実際にセキュリティソフト動作中に各種ベンチマークソフトを利用してみても点数自体は意外と低下しませんでした。しかし実運用をしてみると「セキュリティソフトの処理が完了するまでに意外と時間がかかる」という声も聞かれます。
F-Secure プロテクション サービス ビジネス 一
一般的なソフトウェアとの適合性の高さが売り
オフィス系やアドビ系、開発系といった、ビジネスシーンにおいて一般的に使われるソフトとの適合性が高く、同時並行でも軽快な動作が可能です。同じく一般的なウェブブラウザにも最適化が図られているため、ウェブブラウジングでストレスを感じることは少ないでしょう。
一方、ウェブストアなどに公開されていないソフトやアプリへの最適化は甘く、特に署名無しなど手製のプログラムを使用する際には動作が重くなることもあります。また、ファイル操作時の動作はやや重い印象です。
Kaspersky Endpoint Security for Business
動作の軽快さは非常に優秀なセキュリティソフト
Kaspersky製セキュリティソフトは、ウェブブラウジングやプログラム起動時の動作の軽快さといった点では他の追随を許さないものがあり、動作速度においては非常に優秀なセキュリティソフトであるという印象です。
少し気になるのはファイル操作時。Kaspersky Endpoint Security for Businessのファイル操作時の負荷をベンチマークソフトで計測すると、なかなかいい結果は出ません。しかし、テストの点数に反して実運用時にはしっかりと軽快に動いてくれていることもあり、一概に言うことはできません。
動作の軽快さという面では頭一つ抜けている印象のKaspersky Endpoint Security for Businessですが、その分他のセキュリティソフトに比べてメモリを消費しがちです。これは、処理速度とのトレードオフというところから見れば、仕方がないことといえるでしょう。
McAfee Security for Business
早くもなく遅くもなく、平均的な動作速度
セキュリティソフトの処理速度という観点では、McAfee Security for Businessは平均的で、苦手なものはないが得意なものもないという印象を受けます。
ただ、プログラムの起動時に癖があるのか、他のプログラムを起動した際の動作はやや遅くなりがちです。そのため、実運用の際にはユーザから「プログラムの立ち上がりが遅くなった」という声を受けるかもしれません。
Symantec Endpoint Protection
未知のプログラムへの判定は厳しいが、全体的に見れば軽快な動作が可能
2000年代前半まで、Symantecのセキュリティソフトは、「遅い」セキュリティとして有名でした。セキュリティを強固にしすぎたために遅くなってしまったのですが、現在ではユーザの声を受けて方針転換をし、他のセキュリティソフトメーカーと同様、動作の軽快さを追求するようになっています。
最近ではウェブブラウジングやプログラムの起動、ファイル操作時ともに、非常に優秀な軽快さを実現しています。ひと昔前の「シマンテックは遅い!」という叫びは、もはや過去のものといえるでしょう。
ただし、未知のプログラムへの警戒心は依然として強く、厳しい判定が行われ、検疫・削除されることがあります。また独自のプログラムを使用する際には、起動完了までに時間がかかったり、手順を継続するためにユーザの確認が必要になることもあるでしょう。
Trend Micro ウイルスバスター ビジネスセキュリティサービス
一部ファイル操作時を除き、軽快な動作が可能
全体的に優秀なスコアを残しており、ウェブブラウジングや他のプログラムを起動しても、コンピュータへの影響はほぼ見られません。また、コンピュータのスキャンにおいては一定の最適化が図られているようで、完了までの時間が早いのが特徴です。
一方、ファイル操作時の動作には、外部からファイルをダウンロードしたり圧縮・解凍したりする際のコンピュータへの負荷が大きく、動作が遅くなってしまいます。大容量データのやり取りは注意しなければならない、というトレンドマイクロの信念が垣間見えます。
また、初めて起動するプログラムは起動時に時間がかかることがありますが、2回目以降は学習して早く起動できるようになります。
必要なのはバランス
セキュリティソフトがストレスとなる前に
どのセキュリティソフトを導入するかを決めるうえで、現在の環境に影響を与えず、仕事をするうえでストレスに感じないというのは非常に重要です。「セキュリティソフトを導入したら仕事が遅くなった」などと言われては、元も子もありません。
それぞれのセキュリティソフトの違いは小さく、細かく見比べるほどのものではないのですが、積もり重なれば話は違います。どのセキュリティソフトを導入するか、迷った時の判断基準の一つとして活用してみてください。
体験版を利用することで、実際の挙動や動作の軽快さがわかるのでおすすめです。
サポートを積極的に使って、理想の体制を構築しよう
実際に導入した後、通常の業務に支障が出るレベルでコンピュータの動作が遅くなってしまうことがあるかもしれません。その場合は、OSやセキュリティソフトの設定が最適化されていない可能性があります。設定を変えるだけで処理速度が劇的に変化することもありますから、導入後あまりにも遅いと感じたらサポートに電話して、アドバイスを仰いでみてください。