セキュリティソフトを選ぶうえで、製品そのものの質はもちろん、サポート体制がどれだけ充実しているかも重要な要素だということを、こちらの記事にて触れました。

今回の記事では、サポートがどのような要素で構成されているか、いざという時のソフトウェアメーカーへの連絡手段など、法人向けセキュリティソフト各社のサポート体制について、より具体的に解説していきます。 電話やメール、チャットなど自分が慣れ親しんでいるコミュニケーションツールがあると思いますが、どのツールが自分との相性がいいかという視点も、導入する製品を選ぶうえで重要な指標のひとつになりますので、参考にしてみてください。

サポートを構成する要素とは

すべてのセキュリティソフトメーカーが用意しているわけではありませんが、サポートを構成する基本的な要素はこの3つ「担当者によるサポート」、「サポートページの設置」、「トレーニング」となります。

担当者によるサポート

どのメーカーであっても中心になるのは、「電話」や「メール」、「チャット」などによる直接のサポートです。

しかし、世界中すべてのユーザーに対応するのには限界があります。また、対応するためのサポーターを採用し教育するとかなりのコストが必要となり、セキュリティソフトの価格もあげざるを得ません。そこで、各メーカーが力を入れているのが次に説明する「サポートページの設置」になります。メーカーはサポートページを充実させ、なるべく “人” 対 “人”のやり取りを少なくしようと努力しています。

サポートページの設置

ユーザーができるだけ自分の力で解決できるように、サポートページ(サポートコンテンツ)を設置しているメーカーもあります。ここでは、よく見受けられるサポートツールについて紹介します。

ユーザーの問題を切り分けるサポートツール
何が問題なのかを調査するツールで、場合によってはサポートツールだけで解決することもあります。

ナレッジベース
頻発するトラブルの事例集や、この問題にはこういった解決策が有効といったことが紹介してあるデータベースです。

辞書コンテンツや動画コンテンツ

トレーニング

メーカーや販売代理店が、セミナーやイベントなどでユーザーに使い方を直接説明するもので、中には実践形式で操作方法や運用方法を身につけてもらうものもあります。ユーザーへのトレーニングも重要なサポートの一つとなります。

サポートが必要な時とは?

サポートを利用したことがない方の為に、サポートが必要な場合について、具体例を挙げて考えてみましょう。このような場合、あなたは何をすべきだと考えますか?

【具体例】
セキュリティソフトが未知のマルウェアだと判断した場合のモデルケース)
セキュリティ担当者であるあなたが出勤してみると、ある部署のコンピュータ上でセキュリティソフトが起動し、社内の総務システムに接続ができないという騒ぎになっていました。セキュリティソフトによれば、既知のマルウェアではないものの、被害が予想されるプログラムを検出したため、予備的にネットワークから切断したそうです。

最初に行うべきは、セキュリティソフトのログを調査し、問題が発生したタイミングを特定することです。それから警告されたプログラムを削除し再起動しましょう。
ここまでは、基本的にはサポートツールナレッジベースで対応できる範囲です。操作方法が分からない、などの場合はサポートページに用意された操作マニュアルや動画コンテンツなどを参照する必要があります。
また、今後同じようなことが起きないよう感染源や被害を確認し、対応策をマニュアルに記載しておきましょう。

さらに、今回のように未知のマルウェアである可能性があるのであれば、マルウェアの検体の抽出も非常に重要です。検体を抽出して、セキュリティベンダーに送り調査を依頼しましょう。本当にマルウェアなら、マルウェア情報を蓄積するデータベースに登録してもらわなければなりません。企業の規模を問わず、標的型攻撃というのは成功率を上げるために未知のマルウェアが使われる場合が多いので、規模が小さいからと言って侮ってはいけません。

ナレッジベースの重要性

現在のサイバー攻撃で使用されるマルウェアのほとんどは、すでに発見され、名前が付けられ、対策などの情報がまとめられている可能性が高いです。このような既知のマルウェアに対しては、ナレッジベースでの「検索」が解決手段として有効です。

メーカーのナレッジベースにアクセスし、マルウェアの名前や引き起こされた事象などで検索してヒットすれば、セキュリティ担当者ひとりでも解決できます。
この様に素早く解決するためには、充実したナレッジベースが必要となります。セキュリティソフトを選ぶ際にはナレッジベースをきちんと考慮するようにしましょう。

一方で、ナレッジベースの情報量の多さだけを基準に判断すると危険です。というのも、情報量は多いけれど、中身のほとんどが英語で書かれていて、日本語コンテンツはごくわずかだった!という場合もあり得るからです。英語に自信のないセキュリティ担当者は、日本語コンテンツの充実度も重要な指標の1つとなります。

トレーニングも活用しよう!

新しく導入した時や実際に運用していくうちに、問題点や疑問点が出てきます。そんなときは、サポート担当者に問い合わせれば解決策を教えてくれます。しかし、セキュリティ担当者としては、問題が発生した時に備えて日ごろから情報収集を積極的に行っておきたいものです。そんなとき役に立つのが、メーカーが用意しているトレーニングです。
セキュリティソフトのノウハウや活用法、万が一トラブルが起きたときの対処法などをレクチャーしてくれます。

また、メーカーによっては、使い方に関する資格認定講座やパートナー制度を設け、その一環としてセキュリティソフトの活用法や対処法一覧などを学べるイベントを開催しているところもあります。ぜひ積極的に参加してみてください。

法人向けセキュリティソフト主要6製品の「サポート対応力」比較

ここからは主要なセキュリティソフト各社のサポート状況について、構成要素ごとに評価を行います。

本稿では筆者の経験をもとに、現在オンライン上で公開されている情報やサポートページ・サポートコンテンツを参照しながら評価しています。情報は2018年8月現在、見解は筆者独自のものですのでご留意ください。

Canon ESET Endpoint Protection

スロバキアに本社を持つESET社が製造し、日本ではキヤノンが販売するセキュリティソフトです。
サポート窓口は電話とWebフォームがメインで、電話の受付時間は9時~17時ですが、ややつながりにくい状況にあります。一方のWebフォームも、他のセキュリティソフトベンダーと比べると返事が来るまで時間がかかっていると思います。

ナレッジベースの情報量は、筆者の周りでは不足気味だという声が多いです。最新のセキュリティ情報などは揃ってはいるものの、ほとんどが英語コンテンツのため、日本語コンテンツとしては期待しない方がいいでしょう。

イベントは各地の展示会にブース出展するくらいであり、また、活用法などを教えるセミナーなどは調べる限りでは開かれていないようです。

F-Secure プロテクション サービス ビジネス

F-Secureはフィンランドに本拠を置いているものの、サポートは日本法人がおこなっています。
サポートには電話とメール、それからWebサポートがあります。電話の受付時間は9時30分~12時、13時~17時30分と、お昼休憩があるので注意しましょう。特徴的なのが、サポートリクエストを利用しようとすると、リクエスト前にナレッジベースでの検索を促す画面が出てくることです。

インストールやシステムに関するナレッジベースは日本語にも対応しており、導入時の悩みなら大半は解決できるのではないかと思われます。ただ、導入時以外のナレッジベースに関しては日本語版としてまとまっておらず、運用開始後はほかの手段で解決していくことになりそうです。
また、英語限定のサービスにはなりますが、掲示板式のコミュニティサイトがあり、返事まで3〜4営業日かかることはあるものの、開発陣と直接やり取りをすることができます。

イベントは自社内展示や新製品の紹介が中心で、日本向けのイベントが活発には見受けられません。 ナレッジベースの情報量、サポート体制などは決して悪くはないのですが、そのほとんどは日本語に対応していません。英語が堪能なら、選択肢の1つとなるでしょう。

Kaspersky Endpoint Security for Business

ロシアの研究者が中心に開発されたセキュリティソフトで、ウイルス検知と動作については一定の評価を得ています。
問い合わせは電話とメール、Webフォームから行えます。電話は平日の10時~18時が受付時間となっています。電話とメールは共に、営業担当と技術担当で分かれているので、比較的早い対応が期待できそうです。
Kasperskyでは、法人ごとにカンパニーアカウントページが用意しており、Webフォームでの問い合わせはそのカンパニーアカウントページから行えます。ちなみにカンパニーアカウントページでは、自社の過去情報の追跡も可能です。
不審なリンクやファイルを送ると事前スキャンをしてくれる、Kaspersky virus desk というサービスもあるので、信用できないリンク先や添付ファイル等の安全を確かめることができます。

ナレッジベースは全て英語で、かなり英語に慣れていないと必要な情報にはたどりつけないでしょう。

セミナーはちょっと変わっており、自社の紹介というよりは、「働く女性向け/子供向けセキュリティセミナー」、「モラルの考え方」など啓発の色が濃いセミナーが多く見受けられます。

McAfee Security for Business

PCへのプリインストールソフトとして有名なMcAfeeが製造販売する法人向けセキュリティソフトです。
電話とメール・専用のポータルページから問い合わせが可能です。電話受付について24時間365日対応と案内されていますが、日本語対応は平日の9時〜17時までで、それ以外の時間にかけると転送されて英語対応になるので注意しましょう。
最近では法人からの問い合わせに対して事象の重大度別にレベルを設定しており、レスポンス時間に差をつけるようになっているようです。
例えば、緊急性のない一般的なものなら2営業日以内、深刻な事象でビジネスに影響が出る状況なら2時間以内、といった形で返事がされるようです。

ホームページ上のサービスポータルやナレッジベース、問題解決のためのサポートツールでは日本語版がかなり充実しており、日本での活動が長きにわたっていることがうかがい知れます。

イベントも年1回の大きな自社イベントのほかに、随時展示や商品説明会、セミナーなどが開催されており、いずれもが高いクオリティに見受けられます。

Symantec Endpoint Protection

旧ノートンブランドの製品で有名なSymantecの法人向けセキュリティソフトです。
電話サポートと専用ポータルのフォーム・サポート専用のオンラインページからのダイレクトチャットがあります。
電話サポートの受付時間は24時間365日と案内されていますが、こちらもMcAfee同様、平日の9時~18時以外は転送されて英語での対応となってしまうようです。
以前は、つながりにくいこともありましたが、現在ではフリーダイヤルの採用と受付台数の増設によって対応の質が向上しています。
サポート専用のオンラインページがあり、電話の他にはこのページから直接Web経由で質問することも可能です。また、英語限定にはなってしまいますが、開発陣と直接やり取りできるチャットサポートもあり、こちらは即時の対応が望めます。

セキュリティソフトの老舗だけあって、ナレッジベースはとても充実していて、細かい情報まで整理されて掲載されています。ただ日本語版ページは数回のリニューアルを経て若干情報が散見されてしまっているので、できれば英語版で見ていただくことをおすすめします。
セキュリティの最新情報などは、他社製品を使っていてもここを参考にしている、と言う人も筆者の周りにはいます。
難点は、英語が堪能でないと使いこなすことはできないということがあげられます。
開発への問い合わせ、ナレッジベースの検索など、必須ではありませんが使いこなすには英語が非常に重要なセキュリティソフトといえるでしょう。

Trend Micro ウイルスバスター ビジネスセキュリティサービス

ウイルスバスターの法人向け製品です。
Trend Microの法人向け製品に関する問い合わせは少し特殊に思われます。導入前の質問や相談は他の会社のようにオープンな形態ではなく、Webフォームから、もしくは代理店の窓口経由で行うことになります。導入後は製品別にサポートが設定され、専用ポータルからのWeb問い合わせや電話窓口が用意されるようです。
電話における自動アナウンスでは製品ごとに細かく問い合わせ先が異なるため、実際に電話を掛ける前にホームページで問い合わせ先の電話番号を確認しておくとスムーズです。
このサポート形態をどう受け取るかは人それぞれだと思いますが、良くも悪くも日本的だと言えるのではないでしょうか。なお、受付時間は9時~12時、13時~17時30分です。

問題解決については、オンラインで解決できることはオンラインで、という思想が強く見受けられ、そのためのナレッジベースの充実度には目を見張るものがあります。
用語集も日本語で非常に充実しており、他社製品を使っていても参考になるほどです。

また、老舗だけあり自社製品のセミナーやイベント、認定資格はしっかりと整備されています。認定資格は対外的な評価にもつながるので、余裕があればチャレンジすることも検討してみてもいいかもしれません。全体的に日本語コンテンツが非常に充実しているので、親しみやすい製品といえます。

サポートに頼ることも視野にいれよう

セキュリティソフトを運用していくうえで何か問題が発生したとき、実際に解決にあたるのはセキュリティ担当者であるあなたです。いつどんなシチュエーションでサポートを使う事になるのかを視野に入れてセキュリティソフトを選ぶようにしましょう。
一番大切なのは、サポート体制がわからず解決が遅れたために、会社に損害を出してしまうことです。そのようなことにならないよう、導入前にしっかりと検討するようにしましょう。