今回の記事では、初期コストや一般的な運用コスト(年間ライセンスの費用)といった目に見えるものだけではなく、サポート体制により変化するトラブル発生時の人件費について解説していきます。法人向けセキュリティソフトを選定する際には、このサポート体制についても判断材料に加えてみて下さい。
- セキュリティソフトの価格はどうやって決まる?
- あなたの仕事を左右するサポート体制
- 稟議でサポート体制の価値を理解してもらうために
- 法人向けセキュリティソフト主要6製品の「コストとサポート」比較
- Canon ESET Endpoint Protection
- F-Secure プロテクション サービス ビジネス
- Kaspersky Endpoint Security for Business
- McAfee Security for Business
- Symantec Endpoint Protection
- Trend Micro ウイルスバスター ビジネスセキュリティサービス
- ライセンスの更新が切替には最良のタイミング!
セキュリティソフトの価格はどうやって決まる?
まずは、セキュリティソフトの価格はどのようにして決まるのか解説します。
一般的なセキュリティソフトの機能は、次の5つに大別されます。
・マルウェア対策
・ファイアーウォール
・スパムメール対策
・コンピュータのパフォーマンスチューンナップ
・ID/パスワードの管理
さらに、複数の端末を扱うことになる“法人向け”のセキュリティソフトにおいては、この2つの機能が追加されます。
・複数台の一括管理
・個別コンピュータ制御
もちろん、すべてのセキュリティソフトに全機能が搭載されているわけではありません。「どれだけの機能が搭載されているか」が、各製品の価格の差となっています。最低限の機能のみが搭載された製品に、必要な機能をオプションとして追加していく、という購入方法が一般的です。他にも販売代理店との関係やボリュームディスカウントなど、法人向けセキュリティソフトの価格決定には多くの要素が絡み合っています。
あなたの仕事を左右するサポート体制
セキュリティソフトを導入するにあたり、セキュリティ担当者は【導入】と【運用】、2つのタスクに直面することになります。
【導入】
多くの場合、セキュリティ担当者が直接コンピュータを触りながらインストールしていきます。しかし残念なことに、「インストールできない!」「ライセンスが認識しない!」「突然起動しなくなった!」といったトラブルは決して少なくありません。
【運用】
無事インストールが終わって運用が始まっても、製品や端末のアップデート時の不具合や、マルウェアに感染したときの対処、社内からの疑問・質問の声といったものに対応していかなければいけません。
これらのタスクを速やかにこなしていくためには、セキュリティ担当者に相応の知識があるか、またはサポート体制が整っていなければなりません。
サポートには大きく分けて、「販売代理店」と「ソフトウェアメーカー」の2種類があり、導入時は販売代理店の、運用が始まってからはソフトウェアメーカーのサポート窓口を利用することが多いようです。
ここで意識してほしいのは、「何らかのインシデントが発生すると、直面した社員とセキュリティ担当者2人の業務時間がとられてしまう」ということです。解決が長引けば長引くほど、関わった人の人件費というコストがかさんでいきます。つまり、インシデントの解決スピードに直結するサポート体制は、企業の人件費にも直結するということです。 「セキュリティソフトなんてきちんと動いてくれさえすればそれでいい」と言う人もいますが、それは大きな間違いです。製品の品質と同じくらいに、サポート体制というのもセキュリティソフトを選ぶ上で非常に重要な要素となります。
稟議でサポート体制の価値を理解してもらうために
前述したように、セキュリティ担当者にとってはサポート体制も、セキュリティソフトを選定する上で重要な判断材料となります。ただ、サポート体制が整っているセキュリティソフトは価格が高くなる傾向にあるため、一般的に決裁者は導入時の初期コストや一般的な運用コスト(年間ライセンスの費用)といった目に見えるコストを抑えたがるでしょう。
それでは、社内で稟議を通す場合、どの様に説明すればサポート体制の価値を理解してもらえるのでしょうか。
それはズバリ、先ほどの人件費です。サポート体制は、運用時の人件費に直結します。過去に起こった社内トラブルを例に挙げ、人件費に換算して示す事ができれば、より説得力のある説明ができるでしょう。 セキュリティソフトというのは将来にわたって企業の資産を守るためのものです。目に見えるコストだけではなく、サポート体制のような目に見えづらい部分も検討するようにしましょう。
法人向けセキュリティソフト主要6製品の「コストとサポート」比較
ここからは主要なセキュリティソフトの価格とサポート体制について評価を行います。本記事では各製品のサポート面の概要を記すに留めています。より詳細なサポートの状況についてはこちらの記事をお読みください。
本稿では筆者の経験をもとに、現在オンライン上で公開されている情報やサポートページ・サポートコンテンツを参照しながら評価しています。情報は2018年7月現在、見解は筆者独自のものですのでご留意ください。
Canon ESET Endpoint Protection
スロバキアに本社を持つESET社が製造し、日本ではCanonが販売するセキュリティソフトです。
製品として「スタンダード」と「アドバンスト」の2種類が用意されていますが、迷惑メール対策や不正侵入対策はアドバンストにしかないので、法人向けとしてはアドバンストが適しているでしょう。
インストールが比較的簡単で問題も少ないことから、サポートに依存することなく運用が可能です。しかしサポートが必要になる事態が発生してしまうと、キヤノンはあくまでも窓口のためスロバキアとの連絡が必要となることがあり、解決までに日数がかかってしまう可能性があります。
F-Secure プロテクション サービス ビジネス
F-Secureはフィンランドに本拠を置いているものの、サポートは日本法人がおこなっています。
製品としてはすべての機能が包括的に備わっているのが特徴です。F-Secureプロテクションサービスビジネスワークステーションというサービスで、クラウド管理型セキュリティソフトを展開しています。
サポート体制の質は高く、ウェブ上にも数多くの事例が掲載されているため、セキュリティ担当者にある程度の知識があれば有用だと考えられます。通常サポートの範囲内であれば、日本語対応も可能です。ただし、サポート窓口の時間が17:30まで、しかもお昼には1時間の休憩あり、と緊急時の対応には若干不安が残ります。
Kaspersky Endpoint Security for Business
ロシアの研究者が中心に開発されたセキュリティソフトで、ウイルス検知と動作については一定の評価を得ています。
Kaspersky Endpoint Security for Businessが法人向けソフトウェアとなっており、コア/セレクト/アドバンストの3種類が用意されています。ただし、こちらの3つはオンプレミス型です。クラウドベースではスモールオフィスセキュリティというサービスがあります。こちらはライセンス数の数え方が特殊で、1つのライセンスでモバイルとコンピュータをセットで保護することが可能です。5台で契約すれば、モバイル・コンピュータの2台×5で10端末を保護できます。
問題点は、ウイルス検知力が“強すぎる”がために必要以上に検疫してしまうことでしょうか。ウイルス検知力の高さを見込まれて様々な機関で積極的に採用されるものの、誤検知に対する対応や十分なサポートが得られないため、国内の機関ではカスペルスキーの製品に精通しているセキュリティ担当職員を募集していることもよくあります。
McAfee Security for Business
ハードウェアベンダーとの連携も多い、カリフォルニア発のセキュリティソフトです。
クラウド型とオンプレミス型を選ぶことができます。個人向けコンピュータにあらかじめインストールされていることも多く、管理が簡単なのが特徴です。
サポート窓口は比較的つながりやすく、また対応も悪くはないのですが、製品自体のウイルス検知率がやや低めで、ウイルス情報のアップデートが後手に回ることも。そのため感染後の検疫でサポートを使う機会が増えてしまいます。電話窓口も比較的長時間受け付けていますが、日本語の情報が少なく対応に手間がかかることもあります。
Symantec Endpoint Protection
Symantecといえばノートンなどで知られていますが、法人向けはこの製品名になります。中でもSmall Business Editionは中小企業向けといえるでしょう。
シマンテックの特徴として、セキュリティソフトの基本から少し外れる迷惑メール対策などのような機能は追加オプションとしても用意されていないので、必要な場合には別製品を買うことになります。
一方サポート体制は非常によく、販売代理店にも知識のある人が多いので古くからの法人に好まれています。ただし、カスタマイズの汎用性が高く、また情報収集のためには英語が必要になってくるので、セキュリティ担当者に求められるものが多い製品と言えるでしょう。
Trend Micro ウイルスバスター ビジネスセキュリティサービス
トレンドマイクロは、国内において販売代理店の数が多いだけでなく代理店レベルでの勉強会も頻繁に開かれているため、いざという時でも安心です。またサポートも日本語での対応が可能で、オンライン、電話、窓口でもスピーディな対応が望めます。こういった面は、セキュリティ担当者がいない、あるいは少ない中小企業にとって非常にうれしいところです。
ただ、その分価格は高い印象です。少々値は張るものの、サポート・製品の質には十分見合っているので、人件費という面で見れば有力な選択肢の一つといえるでしょう。
ライセンスの更新が切替には最良のタイミング!
セキュリティ担当者は、導入時だけでなく導入後も、セキュリティソフトと向き合っていかなければなりません。会社の成長に伴い自社にとって最適なソフトはどれか、ということを考え続けなくてはならないためです。
例えば「ライセンスの更新」はひとつの良いきっかけです。メーカーによっては他社からの乗り換え割引なども用意しているので思い切って他の製品も選択肢に入れて検討してみましょう。各社、各販売代理店ともに価格改定やキャンペーンなどを行っている可能性があるので、まずは問い合わせるところから始めてみてください。
サポート体制は頻繁に変化するものではありません。自社の現状、そして将来の状況を考え、価格と質、将来にわたってかかる人件費といった中長期的な視点で、導入するセキュリティソフトを決めるようにしましょう。